スウェーデンデザイン史

スウェーデンのモダニズムデザインの礎にあるもの

ヴァイキングの時代より手工業製品の制作に優れており、スウェーデンのモダニズムデザインの礎には大切にされてきた職人たちの技術があります。織物、ガラス、木工といった伝統工芸を支えた彼らの存在は大きく、その暖かい人間味あふれる制作コンセプトと取り巻く豊かな自然が合わさりスウェーデンのモノつくりの基本となっており、また歴史ある王室を持つスウェーデンには貴族階級に供給される美術品とも呼べる手工芸品の製作も重要視されており、職人の技術は常に高いレベルにありました。

モノつくりに産業革命がもたらした影響





イギリスでおきた産業革命はモノつくりに大きな影響をあたえました。当時北欧は後進エリアとされ国が豊かではありませんでしたが、スウェーデンだけは地下資源に恵まれキルナ鉄鉱山で産出される良質な鉄鉱石により鉄鋼業が盛んで、北欧の中では数少ない大規模資本による工場が行われ機械工業が進んでいる国でした。林産工業、鉄工業を基幹産業として徐々に外国資本の導入を図り、後進性からの脱却は図ろうとしましたが、機械工業化の速度は他のヨーロッパ諸国に比べればかなり遅いものでした。


しかしスウェーデンブランドの向上を国が積極的に主導しする形で1845年、スウェーデン工芸工業デザイン協会が設立、消費者研究や素材開発など北欧デザインの黄金期を迎えるための準備は早々にされていたのです。そして国を挙げて工業化が進むその過程でドイツ(ロシア帝国への対抗から接近)、アメリカ(失業者などの移民として移住・人口の1/4にあたる130万人と言われる)との関係が深くなり、そのためドイツでおきたバウハウスの衝撃に近い影響を強く受けることになります。その影響はバウハウスの合理主義かつ機能的な考え方はスウェーデンにおいて、身の回りの自然を素材としたシンプルで機能的でありながら手工業の温かさを併せ持つという独特のデザインを開花させました。やがて産業革命により形成された都市中産階級に支持されグンナー・アスプルンドをはじめ多くのモダンデザイナーを生み出します。それは1930年代にパリやアメリカで開催された世界博覧会でスウェディッシュ モダンとして世界に広く知られることになります。

スウェーデンデザインの黄金時代

第二次世界大戦後、アメリカにおける戦後復興でおきた巨大な需要の中でスウェーデンをはじめとするスカンジナビア諸国のモダンデザイン家具、インテリア製品が注目を浴びます。当時アメリカは近未来的なフォルムと鮮やかな色彩に加え、人間工学に基づいたミッドセンチュリーと呼ばれるスタイルの発信エリアでしたが、効率最優先の産業デザイン製品とは異なる伝統的手工業を感じさせるクラフト的な製品は新鮮に映ったのでしょう。その後ミッドセンチュリーデザインとスカンジナビアモダンデザインはお互いに影響しあい数々の才能あるデザイナーが世に送り出されました。


スウェーデンは中立主義を取ったためヨーロッパでも数少ない自国が戦場となることを逃れることのできた国でした。そのため国内インフラ・人的損失が少なかったため戦後復興が早く、工業国として急激な経済成長をとげた1960年代は黄金期と呼ばれ、家電・自動車・通信機器分野の各メーカーの動きが活発になりました。

暮らしを提案する北欧デザインのコンセプト

しかし70年代に入り石油ショックによる北欧を始めとするヨーロッパ経済の停滞、そしてポストモダンの考え方の広まりを受け素材、コンセプトともに北欧デザインは徐々に主流から外れていってしまいます。その中でもメーカーが積極的に採用した若手デザイナーたちは従来の伝統的な北欧デザインにとらわれず、斬新なアイデアをもって新しいコンセプトを内包した作品を作り出していきました。それは伝統のスカンジナビアデザインに福祉国家のメーカーにふさわしく人への優しさ・安全性を付加したは他の国では見ないもの製品はスウェーデンをデザイン大国へ押し上げる契機となりました。彼らスウェーデンのデザイナーは福祉先進国として性別、年齢に関わらず高齢者であれ、体に障害をもつ者であれ誰にでも使えるユニバーサルデザインを、また環境先進国として環境に配慮した素材・ギミックによるエコデザインを意識しています。


このように戦後に登場した近代デザイナー達は斬新かつシンプルで機能的なデザインをスウェーデン伝統コンセプトに加え次々に製品を発表し国際的に注目を集め、今世界中でスウェーデンデザインが評価されていますが、それは彼らが守ってきたライフスタイルや文化をも評価されていることだと思います。